働いて得るもの

わたしが経験して比較的つらかったなとおもうバイトは、斜陽にある古いラーメン店でセクハラを受けながら働いたことと、食品を扱う冷凍施設で在庫確認などの作業をして毎晩熱を出しながら働いたことです



前者の現場には、いつもJ-POPの歌詞や少年マンガのセリフのようなことしかいわない部長がいました。彼はそんなキャラを振りかざしながら、平素からセクハラを堂々と行っていました。フレンドリーなつもりでブラホックを外したり、エプロンに手を突っ込んだり

それどころか、バイトの女子大生がなん人も彼に手を出されていたようでした


ほんとうに古い地下街のラーメン店で、いつも無数のちいさなGに囲まれており、数か月に一度くらい、Gの浮いたラーメンを客に出してはお代をいただかずに帰らせるという事件が起きていました。そうでなくとも、客の足もとをネズミが滑っていき、「なんとかしてよ!」と大騒ぎになることはほぼ毎日でした

そういう店だから、バイトも集まらず、本社の部長に現場に出てもらうのがあたりまえになっていたのだとおもいます
彼にセクハラし放題のパワーをもたせてしまっても、ほかに店を回せる人物がいない以上、放置するほかなかったのかもしれません


会社のシステムではなく、個人の能力に頼って、とくに影響力のある社員のカリスマに経営を依存するという仕組みの会社を、わたしは斜陽企業とよびます


いっしょに部長の悪口をいい合ったバイト仲間や、いつでも励ましてくれた社員、先輩……
彼女たちが、ことごとく彼のセフレだったとしったとき、わたしは「働くってなんなんだろ」とおもわずにいられませんでした
「女性が働くってそういうことなのかな」
セクハラを受けた気持わるさよりも、はじめて身にしみたジェンダーというものがわたしには堪えました




後者の冷凍施設では、外食店で出すための既製品やお歳暮の精肉などの在庫を確認したり、それらを箱詰めして包装したりをしていました


わたしは巨大な冷凍庫のなかでからだを冷やしてしまったことで、いつも体調を崩していました。そこで、熱を出していると社員に報告したら、なん年も働いている彼ら社員さえも、冷凍庫に籠ったときには体調を崩して熱を出すということを聞き、ショックを受けました


それでも、彼らはたばこを吸い吸い、人生なんてこんなもの、と毎日氷点下で寿命を縮めているのです


コンビニや外食店、スーパーなどの食材は冷凍されて届きます。その店で調理されたり、解凍されたりしてわたしたちのテーブルに運ばれます
また、とても便利でおいしい冷凍食品というものは重宝されます

でも、食料をみずからで育成、収穫、調理できなくなった大量消費社会の裏側では、からだを冷やして命を削るひとびとの、まさに人生そのものが犠牲になっているのです

そう気づいてみると問題は冷凍するひとびとだけでなはないはずです
食材を育てたひとや、その産地に始まり、その料理にかかわったすべてのひとにとって、搾取的ではない公正な取引ができるものでしょうか
大量消費社会のやりかたしかしらないわたしたちには、それはどうしても無理なことだ、とおもえてなりません



あなたがヘルシーでおしゃれなカフェで幸福な時間をすごしていても
自身や家族のために健康的なメニューをかんがえて料理をこころから楽しんでいても

日本社会に生きているというだけで、毎日無数の他人の人生を犠牲にするほかに、道がないのです

わたしはつくづく恥ずかしくて、虚しくなってしまいました




でも、以上のようなバイトでは給料のためだからと被害者ぶって、自身を正当化することができないでもありません
苦労していれば親にも示しがつきます

イラストなどの創作では、それさえできないんです