阿片

映画が完結した寂しさも束の間、時期は未定ですが、「るろうに剣心」が新しくTVアニメになるというニュースがファンを騒がせています。わたしがよく動いてくれるかどうか気になるのは観柳です。観柳と、それから張の薄刃の太刀をノリノリで中割りしてくれるとオタク向けつぽくて最高なのですが、人手不足なので仕事は次々来るはずですから、そのアニメーターさんが個人的に観柳、張を氣に入つているかという氣持ちの問題ですよね。






話は変わりますが、12月中ずっと、阿片とはつまりなんなのかということを、図書館に通って考えていました。
阿片の書籍は、「植物」「醫学」「社会問題」の棚に散らばっており、意外にも歴史の棚にはありませんでした。図書館の資料全体がやはり文系で、医学の書籍であっても民俗や歴史が書いてあったという印象です。

こうした書籍に共通しているのは、阿片は歴史的に、痛みを和らげるという醫療のイメージそのままの、ごくありふれた薬だつたということでした。

るろ剣の「阿片」表記に則って、この藥のややこしいところをまとめてみました。







(これは合法のひなげしです……阿片芥子ではありません)








植物は、外敵に食べられ過ぎないよう、シュウ酸、ポリフエノール、そしてアルカロイドなどで、みずからの味を損なわせるそうです。もともと苦味を生じるためだつたアルカロイドには、珈琲のカフエイン、烟草のニコチン、コカのコカイン、麻黄のエフエドリン、そして芥子のモルヒネなど、偶然、動物を陶酔させる作用をもつことになつたものがあります。



モルヒネが多く含まれる芥子は Papaver somniferum という種です。ひなげしと異なり、芥子の雌蕊は丸みがあり大きいものです。夏に花が散るとこれが蒴果という卵くらいの果実となり、中にはあんぱんでおなじみのあの芥子粒が無数に入っています。
しかしポピーシードにはほんの僅かなモルヒネしか含まれません。阿片は、蒴果をナイフなどで傷つけて出てきた白い乳液をこそげ取り、乾かしたものです。乾かすと黒くなります。
丸めて、そのまま丸藥として飲めますが、ほかにも、燻して煙を吸う、カクテルにする、ケーキに入れる、座藥にする、皮下注射する、等凡ゆる方法で摂取できます。



「阿片」は日常の日本語です。英語など欧米の言語では「opium」といいます。
それに対して 「モルヒネ」「morfine」(英語では morphine)は、阿片に含まれる分子の學術的な名前です。

阿片には呼吸の抑制、皮膚のかゆみ、嘔吐、便秘、性欲減退、幻覚、昏睡、痛みがやわらぐ、というような生理作用があります。西英勝著『本当に怖い!薬物依存症がわかる本』によると、 5、6囘續けていると不快感は氣にならなくなり、そのうち、たとえば非常にいいニユースを聞いたときくらい、気分がパツと上向くようになるそうです。確かに、言われてみると珈琲も煙草も、最初は具合が惡くなるだけですよね。
それらの効果をもたらす分子が、モルヒネです。阿片はモルヒネのほかに、天然の芥子由来の不純物が9割前後ほど含まれており、産地と気候によりモルヒネの割合は異なります。
モルヒネは化學的に合成できず、芥子から採取するしか方法がないので、現代でもどうしても真つ白な粉ではなく、ごろごろと茶色つぽい不純な品が多くなります。



パパベル・ソムニフエルムは地中海東部が原産で、トーマス・ヘイガーの『歴史を變えた10の藥』には、メソポタミアの遺跡に、人間が阿片を作つていた証拠が見つかつている、とありますが、文書として書かれているのは古代埃及の『エーデルス・パピルス』が最古です。そのパピルスには、夜泣きする赤ん坊に、阿片と雀蜂の糞を混ぜた藥をあげるということが書いてあるそうです。夜泣きについては、阿剌比亞のイブン・シーナーも、阿片とフエンネル、アニスシードを混ぜた藥を勧めているらしく、希臘のヒポクラテスもまた、阿片について度々書いていました。




モルヒネだけが取り出されるようになつたのは、19世紀ドイツのゼルチユナーが最初でした。それから前半に述べたようなアルカロイドが續々と突き止められ、ゼルチユナーを切つ掛けに藥學は飛躍的に發展しました。
後にわかつたことですが、モルヒネを無水酢酸で数時間煮るとアセチル化され、ジアセチルモルヒネとなります。1898年、この分子にバイエル社は「ヘロイン」と名づけました。ヘロインは阿片のような天然のアルカロイドではなく、ジアセチルモルヒネの商品名なのです。
モルヒネとヘロインは20世紀初頭に規制されましたが、現代藥學は、これらオピオイド系より安全な鎮痛剤を作ることができていません。




現在、醫療用阿片はアフガニスタンと印度、東南亜細亜で盛んに作られています。
ロナルド・K・シーゲルという麻藥の専門家が、越南戦争のとき、空襲にさらされた水牛が普段近寄らない芥子を食べたことを報告しました。辛いことがあつた個体だけは、あまり栄養にならないのに、陶酔を起こす植物をすすんで食べるのです。

麻藥依存症患者を治療してきたガボール・マテもそう言います。大手術を受け長期的にモルヒネを投与された者が、必ず依存症になる譯ではなく、元々トラウマがあつて生きづらかった者だけが依存する様になるというのです。アルカロイドがひとを不良にする、という因果関係ではないことがあるのです。

ふたりのような考え方だと、中毒 :addiction は本當に藥物のせいですが、依存症 :depentent は多くの場合使用者の問題ということになります。無糖の珈琲を嫌う者のように、傷ついていない者にとつては、アルカロイドはやはりとても不快なもので、大體において依存するどころか二度と摂取したくなくなるということがわかりました。

いずれにせよ女性としては、モルヒネは性欲を減退させる、ダウナー系の藥物だということに関心を寄せてしまいます。服用したひとの態度は穏やかで、アルコールのように一気飲みで仲間を殺したり、酔つて仲間と輪姦に及んだりはしにくいのだということが、わたくしの藥物への態度を大きく變化させました。






基本的な知識と、混乱しがちな箇所だけ自分用にまとめてみましたが、最後にさらに要約してみます。

・芥子の蒴果を傷つけて出てきた乳液が乾くと阿片になる

・芥子を原料とする阿片は麻酔、鎮静剤、気分を良くする向精神藥などとして歴史以前から知られていた

・阿片のなかで本當に効果があるのはモルヒネという、芥子からしか採れないアルカロイド

・ヘロインは人間によつてモルヒネと無水酢酸で作られるので、天然の芥子のアルカロイドではない

・化学物質が直接依存症の原因ではないという科學者や醫師がいる

・モルヒネはダウナー系