外科器具は発明者・改良者の名を冠するのが一般で、器具の形状や用途に応じて名前が残る仕組みとなっています。國ではなく時系列の順に並べて紹介します。
• クーパー鉗子(Cooper forceps) – アストリー・クーパー(1768–1841)
• ケリー鉗子(Kelly forceps) – ハロルド・ケリー(1858–1943)
• ペアン鉗子(Pean forceps) – ジャン・ペアン(1830–1898)
• クッシング鉗子(Cushing forceps) – ハーヴェイ・クッシング(1869–1939)
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19世紀中期〜後半(フランス・ドイツ・アメリカ)
• コッヘル鉗子(Kocher forceps) – オイゲン・コッヘル(1841–1917)
• クスコ(Cusco’s speculum) – ジャン・クスコ(Jules-Émile Cusco, 19世紀)
• マチュウ鉗子(Mathieu forceps) – エドゥアール・マチュウ(1835–1893)
• ポッツ鉗子(Potts forceps) – ジョージ・ポッツ(19世紀)
• フォーリーカテーテル(Foley catheter) – チャールズ・フォーリー(1859–1929)
• ハルステッド鉗子(Halsted forceps) – ウィリアム・スチュワート・ハルステッド(1852–1922)
• マッカンドー鑷子(McCulloch forceps) – ジョン・マッカンドー(19世紀末〜20世紀初頭)
• ブラウン鑷子(Brown forceps) – ブラウン氏(19〜20世紀)
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20世紀(アメリカ中心・微細血管外科・心臓血管外科)
• ドベーキー鉗子(DeBakey forceps) – マイケル・ドベーキー(1908–2008)
• チャンピオン鉗子(Charnley forceps) – ジョン・チャンピオン(1911–1982)
• ウェルチ・アレン鉗子(Welch-Allyn forceps) – ハーヴェイ・ウェルチ&アレン(20世紀)
• スミス・ペティ手術刀(Smith-Peterson knife) – 20世紀整形外科医
ペアン鉗子(Pean forceps / Pean clamp)
由来: フランスの外科医 ジャン・ペアン(Jean-François-Auguste Le Dentu, 1830–1890)(※歴史的にはジャン・ペアン、1830–1898とも)
特徴: 大きめの血管結紮用。歯なしタイプが一般的。
ポイント: ハンター派の流れを汲む実践派。ペアン自身もハンター派の「手で生命を制御する」精神の延長線上。
リスター鉗子(Lister forceps)
由来: イギリスの外科医 ジョセフ・リスター(Joseph Lister, 1827–1912)。
特徴: 消毒外科の父。リスター鉗子は消毒を前提に作られ、操作性重視。
ポイント: ハンターの弟子、アバーネシーのそのまた弟子。リスターの消毒理論が器具の設計にも反映され、清潔かつ正確な手術を可能にした。
ケリー鉗子(Kelly forceps / Kelly clamp)
由来: アメリカの外科医 ハロルド・クラーク・ケリー(Howard Atwood Kelly, 1858–1943)。
特徴: 鉗子の歯が部分的についており、血管や組織をつかむのに便利。
ポイント: 婦人科外科のパイオニア。コッヘルと同じく血管結紮に特化した器具設計。
コッヘル鉗子(Kocher forceps / Kocher clamp)
由来: ドイツの外科医 オイゲン・コッヘル(Theodor Kocher, 1841–1917)。
特徴: 歯つきの鉗子で、血管や組織をしっかり掴むことができる。
ポイント: コッヘル自身が甲状腺手術の効率化のために開発。今でも「血管を逃がさず掴む必殺鉗子」として定番。
マチュウ(Mathieu forceps)
由来: フランスの外科医 エドゥアール・マチュウ(Édouard Mathieu, 1835–1893)。
用途: 主に産科や小手術で使う鉗子。歯なしタイプで柔らかい組織を挟むのに便利。
ポイント: マチュウの器具は握りやすく、手に馴染むよう設計されており、「手に沿う鉗子」の典型例。フランス外科の実践的センスを感じる。
クスコ(Cusco’s speculum)
由来: フランスの産科医 ジャン・クスコ(Jules-Émile Cusco, 19世紀)
用途: 子宮頸部の観察用膣鏡(スぺキュラム)。産科・婦人科手術や診察で使用。
ポイント: 産科器具の古典。クスコ派の精神は「視覚による観察重視」、つまりハンター派流の「直接観察」の産科版。
ツッペル鉗子(Tuffier forceps / sometimes Tuffier’s clamp)
由来: フランスの外科医 アンリ・ツッペル(Auguste Tuffier, 1858–1925)。
特徴: 小さめで微細な操作用。特に血管結紮や小手術で重宝。
ポイント: ツッペルは麻酔科の発展にも関わったので、器具も繊細な操作に対応。
クッシング鉗子(Cushing forceps)
由来: アメリカの神経外科医 ハーヴェイ・クッシング(Harvey Cushing, 1869–1939)。
特徴: 神経外科で使いやすい細かい鉗子。神経や硬膜を掴む際に便利。
ポイント: クッシングは脳外科のパイオニアで、器具のデザインも患者の安全性最優先。 後米国は心血管・神経・臨床応用重視の器械を発明する。(ケリー、クッシング、ドベーキー、ポッツ)
ポッツミス(Potts’ scissors / Potts’ forceps)
由来: アメリカの外科医 ジョージ・ポッツ(George Potts, 19世紀)
用途: 血管切開や動脈縫合用のハサミ。特に心血管外科や大血管手術で使用。
ポイント: 血管を扱うため、先端が精密かつ滑らか。ハンター派の「生命を手で操作する精神」がそのまま反映。
デバキ鉗子(Debakey forceps)
アメリカの心臓血管外科医 マイケル・ドベーキー(Michael DeBakey, 1908–2008)
用途:血管や柔らかい組織を掴むための非損傷性(atraumatic)鉗子
ポイント:歯がなく先端が平ら。心臓血管外科や大血管手術で必須となっている。ハンター派の精神「組織を正確に、傷つけず操作する」を現代に継承
マッカンドー鑷子(McCulloch forceps)
由来: アメリカの外科医 ジョン・マッカンドー(John McCulloch, 19世紀末~20世紀初頭)
用途: 血管結紮や組織把持、特に心臓血管外科や胸部外科で使用される。
特徴: 非損傷性(atraumatic)で先端が細く、柔らかい血管や神経を掴むのに向く。
ポイント: ドベーキー鉗子やケリー鉗子と同じく、「組織を傷つけず操作する」ハンター派の精神が反映されている。
ブラウン鑷子(Brown forceps)
由来: おそらくアメリカまたはイギリスの外科医 ブラウン氏(19〜20世紀) に由来
用途: 微細組織を掴むための鉗子。神経外科や心臓血管外科、泌尿器科などで使用。
特徴: 先端に歯がなく、細かい操作が可能。先端の形状にはバリエーションあり(湾曲型、直型など)。
ポイント: ハンター派の「手の感覚で組織を正確に操作する」という哲学が生きている。
人名手術器械の番外:ペトリ皿(Petri dish / シャーレ皿)
由来: ドイツの細菌学者 リヒャルト・ペトリ(Richard Petri, 1852–1921)
用途: 培養微生物の観察用。平らで浅い皿に培地を流して、微生物の増殖を観察する。
ポイント: 解剖・外科だけでなく、ハンター派の「観察と記録の徹底」の精神が、微生物学に受け継がれた例。