コピー本の魔法

わたしは学生のとき同人誌を作ったことがありませんでした
当時はずっとじぶんのパソコンがなかったためです




それでも好奇心で、学会報を有名なグラフィックさんに入稿してみたことがあります
それまでの、研究室でコピーされた会報は、みんなで製本した苦労が楽しそうでしたし、落書きなどもあって生気が感じられましたが、わたしは気難しい若者らしく人間嫌いで、そんなコピー本はごめんだったからです





そうして、グラフィックさんから届いたA5の白い会報は、わたしの美意識では心躍るほどのクオリティでしたが、逆の反応もありました。研究室に積まれたそれを見て、ひとりのおばちゃま教授が愛想笑いします。「きれいにしたのねー!」
しかしほかの学生たちには、冷たい、小さくて見づらい、とこぼしていたようです。つぎの年は、そのおばちゃまが新しい運営委員会を取り仕切って、じぶんで印刷させていました



おばちゃまの専攻は古典の日本文学で、きっと若い時から小説などの同人誌を作っていたであろう年代です
彼女が、仲間と共に分け合っていたハンドメイドの灯は、いまやわたしのような悪魔のまえに消えかけているのだ、と他人事のように思います

















さて、今月、はじめてじぶんの趣味の同人誌をまとめました
特にストーリーのない、きれいなだけの漫画を、プロに製本していただくことになります
そのときにおなじみBOOTHを利用し、ふとあることに気づきました
おばちゃまだけでなく、コピー本を作るひとはほかにもたくさんいるのだなということです



わたしの気取った漫画に比べて、みなさんのコピー本の、サンプルを見るだけでなんとワクワクすることか…こんなものが手元に来たら、わたしは光堕ちして泣いてしまうかもしれません

コピー本は、ふつうの紙に書かれたアナログ原稿で、左右反転などして整えることができるデジタルと違い、絵がかなり歪んでいます。ベタにも失敗が目立ちます
それでも作者が手作業でホッチキスを止めてくれたものが、自分の手元にあるのだとおもえば、ただ「すごい」と感じるばかりでしょう。絵がうまいへたではなく、ありのまま「そのひと」だという感想です








(コピー本の雰囲気は、クラスでもらうことのある文集にかなり近いものです。手前はわたしが万年筆と、薄墨の筆ペン、トーン使って表紙を描かせてもらいました。そして周囲との距離が縮まったことを思い出すと、プロに製本を任せる傾向の不毛さがわかります。でも美しいものがすきなので、やめられません)