不動産會社が内装もやつてくれるというご縁に、暗は最初は頼りませんでした。
建築業を首になつているのと、古書店が内装をこだわるのはチヤラついたことだと云う風潮があるからでした。然し居ても立つてもいられず、獨自に業者を探したところ、矢張り女性蔑視に絡まれてしまいました。リフオームを考えていたのは2ヶ所で、まず通路との間に壁がほしく、また床を黒つぽいフローリングにしたいのですが、その業者は此方が何を云っても「鎌倉は地元です」とだけ繰り返し、此方が「床」「壁」と云うと必ず怒つて遮りました。開業未経験の若い女性に良いところを見せたい筈が、イキりとなつてしまつているのです。此方を馬鹿女と思つているのは、服装がスーツではないことからも傳わつてきました。
その代表は多摩美の出身の上、ロゴデザインなどしており、どう考えてもギーク側でした。ナードとは陰キヤオタクのことですが、ギークとはどちらかというと陽キヤを目指しています。エゴを肯定して「ひとの役に立ちたい」と言わないよう気をつけている個人主義者のことです。また、効率主義でもあるので、自分にとつて古本やアンテイークがいらないというだけのことで、開業そのものを反對するのでした。
然し診察室コンセプトだとわかると、掌を返したのはかえつて印象の惡いことでした。「もうすこし前に出会いたかつた」「anamuneなんて超えますよ」「頑張つてほしいです」
然しわたくしはもう返信して居ません。
歴史的にはまず、ナードの技術やセンスの高い同人活動がオタクの地位を上げ、そしてギークが生まれたのだとわたくしは考えています。意識高い系がギークを目指すようになつた理由のひとつには、そもそも世間に理解されない芸術家の価値を、自分だけは知つているという優越感があつたはずのに、腐女子を見下してばかりで、芸術家と働く好機を自ら䑓無しにします。
ビル・ゲイツもスティーブ・ジョブズも自閉症です。自閉症を虐げる人間と自分は違うと思いながら、自分の神とは別の芸術家である自閉症を、にわかと思い込み、神を守ろうとして自閉症を攻撃してしまうのだともいえます。
この業者はギークではなく、ギークのフアンなのです。
わたくしが自閉症であることに氣づいた意識高い系が、あとからフアンとして掌返しするのは見ていられません。元々の女性蔑視は直つていないからです。いまは結局、物件の不動産會社に内装の見積をお願いしています。その業者はまず壁と床の話から入つたので、あまりに話が通じすぎてかえつて此方が狼狽したほどです。
成人してから、なんでもない不断の生活のなかで、いつも驚くこと許りが起きています。髙校までの美術部で、漫画を持ち込むならどの出版社かと部員と談笑していたのが、外界においては奇特で異質なことだつたからです。外界ではどのひとも、立派な讀者であろうと必死です。
みんなより素早く作業をして、よりフアツシヨンを盛つて、より見栄えのする戀人をもつて、推しにより高額のスパチヤをするために生きていて、多摩美のひとでさえだれかの物差しの上です。物差しを作りたいのは、實のところわたくしひとりしかいません。もちろんネツト上には仲間がいますが、漫畫を描いている腐女子にリアルで出くわすことはないのだと、この頃諦めるに至つています。諦めなければ、全員に腐女子に對するような敬意を表してしまい、こちらが過度に見下されます。そしてこれまでの半生で、相手を自閉症に乱暴した加害者として仕立てる結果となつてきたからです。悲しいけれど、ここは美術部の外です。