2本の杖








醫療のグツズには、頻繁に蛇の絡んだ杖のマークが見られます。
暗は蛇の數が1疋のものと2疋のものを区別して考えて居なかつたのですが、別物のようなので此処に纏めてみたいと思います。



まず1疋の蛇が杖に絡んでいるものです。これは「アスクレーピオスの杖」「蛇杖」と云うそうです。WHOのマークとなつています。
アスクレーピオスは醫術に優れて居た神アポローンの息子で、ケイローンの元で育ちました。賢者が弟子として居た英雄のひとりなのです。醫術の腕前は師を凌ぎ、メデユーサの血を入手してからは蘇生までできる様になつたので、ゼウスの雷に撃たれ、天に上げられました。ヒポクラテスの祖先とされることもあります。
蛇の種類は欧州に生息する藥師蛇です。無毒ですが、全長2mの迫力が有ります。この蛇は藥學のシンボル「ヒギユエイアの杯」とも共通して居り、ヒギユエイアとはアスクレーピオスの娘で、矢張り名醫です。



もうひとつ、蛇が2疋の杖は「ケーリユケイオン」と云うそうです。ヘルメスの持物です。オタクにとつては錬金術のマークとして馴染みがあると思います。この杖はラテン神話では「カドウケウス」と云い、「聖なる力を傳える」という意味が强いので、錬金術だけでなく交通のシンボルでもあります。
ヘルメスがアポローンにもらつた牛追い棒なので、この杖はアスクレーピオスのものより全體が短く、また上部に翼があることが多いです。古代の彫刻のなかには、翼がヘルメスの頭にあることもあり、その際には杖にはありません。翼が杖にあるときは、頭にはありません。
この杖は、神秘主義の盛んだつた中世以降は、クピドーや大天使ラフアエルが持つていることもあり、重要なシンボルとして獨歩してゆきます。



比べてみると、本来醫學のシンボルマークだつたのはアスクレーピオスの杖のほうで、ケーリユケイオンが間違つて使われて居るのだということがわかつてきました。アスクレーピオスは名醫で、死後は醫神となりましたが、ヘルメスは技術、魔術、占星術、錬金術などの神秘主義の始祖で、ひとを癒すという方向性ではないのです。元々ヘルメース文書にも『アスクレーピオス』という書物が有り、中世から既に混同されていたのかもしれません。暗はきようまで同じものだと思つて居ました。