G

筆者の昆蟲飼育の最終的ゴールはGを克服することでしたが、昨年春にペットローチを飼い、そこで満足せず、遂に今年いかにもGという外見のサツマゴキブリを飼いました。サツマゴキブリを手に載せて遊んだことを、一旦ゴールとしてみます。









去年飼ったグロウスポットローチというペットローチは、コロンビアとベネズエラが原産で、しずまさんというゴキブリストが、YouTubeで初心者向けに勧めていた種類です。ほとんどの時間マットに潜っていること、プラスチックを登れないこと、背中が盛り上がって丸いこと、顏が鮮やかな橙色であること、ひっくり返ったとき元に戻る仕草で短足が強調され、ダックスフントのようであることがお勧めのポイントだそうでした。昨年飼ってみたところすべてその通りで、わたくしとしては脚がそこまで刺々しくないこと、触覚が長くないことも助かった點です。直ぐに愛おしくなり、わたくしの手など食べてもらっていました。
然し、自然と湧いたトビムシが、単爲生殖で爆発的に部屋中に蔓延り、その年はそのほかの昆蟲の飼育を断念して、ひと段落ついた昆蟲克服の長い旅を振り返るのみと爲りました。




サツマゴキブリは、東南アジアや九州、四國等に分布するGです。今年サツマゴキブリを買い、ケースを作った次の日、職場から家に帰ると、わたくしは慄然として眠れない夜を過ごしました。照明を點けると、ケースの天井にびっしりとGが張り付いていたのです。長い触覚、少し茶色っぽい棘だらけの脚、他の個体に驚いてダッシュする速さ、ダッシュ時のカサカサという音は、まさにGそのもので、購入後ひと月のあいだ手に載せられませんでした。動畫や寫眞で見たときは丸くて愛らしかったのに、いっそありふれたマダゴキのほうが初心者向けといえそうです。グロウスポットローチは繁殖がうまくいきませんでしたが、さすがに都内にも元気に進出しているというサツマゴキブリは、直きに赤ちゃんを産んだので、それも恐ろしいことでした。
本来飼育する昆蟲との距離感はそれでいいのであり、Gに触れることは肝試し的な此方の自己満足で、相手としては人間に捕まりたくないでしょう。然し克服することに意味がないかというと、手に載せることで自身のそれまでの差別や文化というものを抉り出すことができるので、これ以上の好機はありません。





筆者の最愛の蟲はコアオハナムグリのままで、Gに目がないというほどには學者氣質ではなかったことが判りました。しずまさんは、Gが嫌われ者で研究が進んでいないところに夢中になっているそうです。亦、同じくゴキブリストの堀川ランプさんは、元は蛾に詳しく完全変態に探究心を持っていたそうです。一方で筆者は、エスニックなものやセクマイの人々、理系といった、自身と異なるものに探究心を持つ傾向は確かにありますが、マニアはマニアでも、根本は藝術系でしかありません。サド侯爵の著作を、胃を痛め乍も必死に讀む樣に、Gに触ると誓ったに過ぎません。